スコーピング・レビューに基づく考察と今後の展望
今回レビューした論文の異質性(サンプルサイズや細胞、組織、手法)を鑑みても、AHRRやGFI1のDNAメチル化が妊娠中の母親の喫煙(X)と児の疾患(Y)との関連を媒介していることが示唆された。
これは、DNAメチル化率を単なるバイオマーカーとして利用するだけでなく、曝露と結果を結びつける媒介分析のメリットによるメリットだと考えられます。
今後は、媒介分析の方法論やより精密な曝露指標を用いた研究により、これらの結果の再現性などを検証するべきと考えています。
今回レビューした論文では、媒介分析について大きな「ばらつき」がありました。中には方法に媒介分析の実施すら書いてないものもありました。再現性など研究の質を担保するためにも、次の内容は少なくとも記述することが望ましいと考えています。
特に、Cardenas A, et al. Am J Epidemiol (2019) やJordahl KM, et al. Epigenetics (2019) を参考に挙げています。
複数の媒介変数に対するアプローチは、エピジェネティックデータへのさらなる疫学研究のための議論のテーマとなるでしょう。
EWAS1は大規模な疫学研究で一般的になってきており、いくつかの疾患や生活習慣の要因となる複数の異なるメチル化領域が見つかっています。
さらに、DNAのメチル化はその他のオミックス(ゲノミクスやプロテオミクスなど)と関連しているため、疾患の根底にある生物学的な複雑性に対して、高次元の媒介変数を扱う新しい方法論が必要となると考えています。
これらにアプローチしている研究として、Zhang H, et al. Bioinformatics (2016) を挙げています。
このレビューでは、「関連を捉えてきた疫学」から「メカニズムにも迫る疫学」という発展をイメージしながら、その一つの方法論として媒介分析に注目しました。
現在、日本でも多くの疫学研究がゲノムをはじめ、より多様なオミックスデータを収集していることからこのような分子疫学研究がさらに発展する一助になれば幸いである。
CpGサイトと結果変数との関連をゲノムワイドに探索する方法:エピゲノムワイド関連解析のこと↩︎